遺言書作成のメリット

遺言書を作成することには,次に挙げるようなメリットがあります。

自分の思うように財産を相続人らに分配できる

 遺産分割について希望がある場合,遺言書を残すことで,自分の希望どおりの遺産分割を実現することができます。

 ただし,相続人の中には遺留分を有している方もいるので,相続人の遺留分を無視した遺言を残してしまうと,遺留分を侵害された相続人から,他の相続人に対して,遺留分減殺請求がなされてしまうおそれがあります。遺言書の作成にあたって財産の分配方法を考えるときは,自分の希望が法律上も問題がないものか,専門家のチェックを受けることをおすすめします。
▸遺留分減殺請求について詳しくはこちら

〈「相続させる」旨の遺言による相続の効力に関する見直し〉
 遺言により特定の財産を特定の相続人に相続させることもできます。この「相続させる」遺言の効力について、平成30年の法改正により従前の制度が大きく変更されました。
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遺産分割協議のトラブルを防止することができる

 自分の死後,自分の財産の分割方法について相続人たちに争って欲しいと思う方はいないはずです。遺産分割協議のトラブルを防ぐためには,被相続人が遺言書を作成し,財産の分割方法についての指針を立ててあげることが重要です。「自分の相続人たちが遺産分割で争いになることはない。」と思う方もいるかもしれませんが,外部の第三者が口出しをしたり,事情が変わったりと,トラブルになる可能性は色々なところに潜んでいます。
 もしものときのために遺言書を残すことが,相続人間の平和な関係を維持することにも繋がります。

遺言書の種類

民法は,普通方式の遺言(3種類)と,特別方式の遺言(4種類)とを認めています(民967条)。

〔普通方式〕…自筆証書遺言,公正証書遺言,秘密証書遺言
〔特別方式〕…死亡危急者遺言,伝染病隔離者遺言,在船者遺言,船舶遭難者遺言

1.自筆証書遺言

遺言者が,遺言書の全文,日付及び氏名を自分で書き,押印して作成する方式の遺言です。

☆メリット
・誰にも知られずに簡単に遺言書を作成できる
・費用がかからない
★デメリット
・方式不備で無効とされる危険性が高い
・偽造・変造される危険性が大きい
 

<必要な方式など>

・遺言書の形式(自書の範囲)の緩和
 平成30年の法改正以前は、自筆証書遺言について財産目録も含め全文を自書(遺言者が自筆で書くこと)しなければならず、財産目録をパソコンで作成したり通帳のコピーを添付することは認められていませんでした。
 しかし、法改正により、自筆証書遺言の方式が緩和され、財産目録については自書によることは必須ではなくなり、パソコンで作成したり通帳のコピーを添付することにより作成することが可能となりました。ただし、自書によらない目録の作成の場合は目録の毎葉に署名押印することが必要となりました(民法968条2項)。なお、この方式緩和については法施行日の令和元年7月1日以後に作成された自筆証書遺言について適用されます。

・自書能力
遺言者は遺言当時に自書能力を有しなければなりません。自書能力とは、遺言者が文字を知り,かつ,これを筆記する能力をいいます。そのため,筆跡が異なれば遺言が無効となる可能性があります。

・日付
日付は,遺言能力の存否判断や,複数の遺言書の先後を確定する上で重要であり,年月日まで客観的に特定できるように記載しなければなりません。

・氏名
戸籍上の氏名でなくても,通称・雅号・ペンネームでもよいとされています。

・押印
押印は,全文の自書とあいまって遺言書作成の真正さを担保するためのものです。使用すべき印章には制限がなく,実印である必要はありません。認め印でもよいとされています。

・様式
用紙が数葉にわたるときでも,全体として1通とみなせるときは,1枚に署名押印すれば良いとされています。
※ただし、上記のように財産目録を自書によらず、パソコン等で作成される場合は、目録の毎葉に署名押印が必要となります。

・自筆証書遺言の保管制度
 平成30年の法改正により、法務大臣が指定する法務局に自筆証書遺言の保管を申請することができるという制度が新設されました(令和2年7月10日施行)。
 これまで、自筆証書遺言は自宅で保管されることが多く、紛失したり、同居の相続人となった者により破棄・隠匿・改ざんされたりといった問題が生じていました。
 そこで、法改正により公的機関である法務局が自筆証書遺言を保管する制度が新設されました。これにより、自筆証書遺言の紛失や隠匿を防ぎ、遺言書の存在の把握が容易になるなど、自筆証書遺言が利用しやすくなりました。

2.公正証書遺言

 遺言者が遺言の内容を公証人に伝え,公証人がこれを筆記して公正証書による遺言書を作成する方式の遺言です。公証人は,公証人法に基づき,法務局または地方法務局に所属して,公証人役場において関係人の嘱託により公正証書の作成や書類の認証等を行う公務員です。

☆メリット
・内容的に適正な遺言ができる
・遺言意思が確認できるため,無効などの主張がされる可能性が少ない
・公証人が原本を保管するので,破棄・隠匿されるおそれがない。また,相続人による検索が容易である。
・家庭裁判所の検認の手続きが不要である
★デメリット
・費用がかかる
・証人2人とともに公証人役場に行かなければならない
・遺言の存在および内容を証人に知られてしまう

<必要な方式など>

公正証書による遺言は,
①公証人が証人2人以上を立ち会わせて,
②遺言者が,遺言の趣旨を公証人に口授(※)し,
③公証人が遺言者の口述を筆記し,
④公証人が遺言者及び2名以上の証人に読み聞かせ(又は閲覧させ),
⑤遺言者・証人・公証人が署名押印して作成する
という方式で作成されます(民969条)。

※口授とは,遺言の内容を遺言者が公証人に直接口頭で伝えることです。口がきけない者については,通訳人の通訳によるか,または自筆することによって,口述に代えることができるとされています(民969条の2)。

3.秘密証書遺言

 遺言者が遺言内容を秘密にしたうえで遺言書を作成し,公証人や証人の前で封印した遺言書を提出して遺言証書の存在を明らかにすることを目的として行われる遺言です。公証人の前で封印したものであっても公正証書ではないので検認をする必要があります。
 自筆証書遺言の場合と異なり,遺言者が遺言内容を自書する必要はありません。そのため,タイプライター,ワープロ,点字器によるものであってもよいし,他人に書いてもらったものでもよいとされています。

☆メリット
・遺言の内容を他者に秘密にできる
・自書能力がなくても遺言を作成できる
★デメリット
・方式不備で無効とされる危険性がある
・遺言書の紛失、隠匿、未発見のおそれ

4.特別方式の遺言

①死亡危急者遺言
病気その他の理由で死亡の危急に迫った者の遺言。

②伝染病隔離者遺言
伝染病のため行政処分によって交通を断たれた場所にあるものの遺書。

③在船者遺言
船舶中の者の遺言。

④船舶遭難者遺言
船舶の遭難により死亡の危機に迫った者の遺言

‣「検認」とは?
 遺言書の保管者は,相続の開始を知った後,遅滞なく,これを家庭裁判所に提出して,その検認を請求しなければなりません。遺言書の保管者がない場合で,相続人が遺言書を発見した後も同じです(民法1004条1項)。
 検認とは,遺言書の形式的な状態を調査確認する手続で,遺言書の偽造・変造・隠蔽を防ぐとともに確実に保存することを目的とした手続きです。また,遺言書が封印されている場合は,家庭裁判所において相続人又はその代理人の立会をもって開封しなければいけません(民法1004条3項)。
これらに反した場合には,5万円以下の過料に処せられる可能性があります(民法1005条)。

‣「遺言執行者」とは?
 遺言の効力が発生したあとは,遺言の内容を実現させることになりますが,遺言者は既に死亡しているため,遺言者に代わって遺言を執行する者が必要となります。相続人が義務者として手続きに関与することが可能であっても,遺言の内容によっては相続人の利益に反するため,相続人以外の者に遺言を執行させた方がよい場合もあります。
 このように遺言の内容を適正に実行させるために特に選任された者を遺言執行者といいます。
 なお、遺言執行者の権限について、平成30年の法改正により具体化・明確化が図られました。
▸遺言執行者の権限について詳しくはこちら

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