遺産分割

遺産分割の対象となる相続財産

 相続財産の全てが共同相続人の共有となり、遺産分割手続の対象となるわけではありません。相続財産中の現金など、各相続人の相続分に応じて分割できる財産は、遺産分割の手続を経ることなく当然に各相続人にそれぞれ帰属します。

〈配偶者の居住権〉
 平成30年の法改正により、被相続人の配偶者が無償で従前通り被相続人が所有していた居住建物を使用することができる配偶者居住権の制度が新設され、これを遺産分割により配偶者に与えることができるようになりました。
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遺産分割前の遺産の処分についての取扱い

 遺産分割前の遺産の共有状態であっても各共同相続人は、各自単独で自分の相続分に応じた持分につき処分することができ、また共同相続人全員が同意すれば遺産分割の対象となる遺産を有効に処分することができます。遺産分割前に処分された相続財産は遺産分割の対象とはなりません(最判昭和50・11・7)。
 実務上は、共同相続人全員の合意があれば、遺産分割の対象とすることができるとされています。

〈改正法の規定〉
 平成30年の法改正により、遺産分割前に処分した財産について、共同相続人全員の同意により、遺産分割時に遺産に属していたものとみなして遺産分割の対象とすることができる旨の規定が新設され(民法906条の2第1項)、実務上の取扱いが明文で認められるとともに、遺産分割の対象とするために全員の合意が必要とされていたことの弊害に対処するため、処分をした相続人については同意が不要とされました(民法906条の2第2項)。

 この法改正により、遺産を無断で処分した相続人の同意を得ずとも、他の共同相続人の同意により処分された財産を遺産分割することができるようになりました。
 従前も、一部の相続人が無断で遺産を分割前に処分した場合については不当利得返還訴訟等を別途提起することにより解決することができましたが、新規定により遺産分割の手続の中で問題を一挙に解決することができるようになったことの意義は少なくありません。

遺産の一部分割

 遺産分割は、分割の対象となる全ての遺産について一回で分割するのが原則であり、複数回に分けて分割すると遺産全体について公平な分割をすることが困難となるのが通常です。しかし、一回で分割することが容易でない場合もあり、紛争の早期解決のためには争いのない遺産について先んじて分割することが有益な場合もあります。 
 改正前の法律の規定では、一部分割が許容されているかが不明確でしたが、実務上協議や審判による一部分割が認められていました。この実務上の取扱いに沿って平成30年の法改正により、一部分割が可能であることが明らかになりました。

〈改正法の規定〉
 改正法の規定によれば、①共同相続人間の協議により、遺産の一部分割が可能であり(民法907条1項)、②協議が整わないとき又は協議をすることができないときは家庭裁判所に遺産の一部分割を請求することができます(民法907条2項本文)。
 もっとも、家庭裁判所の審判による一部分割の場合、遺産の一部分割により他の共同相続人の利益を害するおそれがある場合には、一部分割の請求を認めないこととしています(民法907条2項但書)。
 これは、相続人間での協議が整わない以上、裁判所は中立的な見地から相続人間に公平な遺産の分配を実現すべきことが要請され、相続人間の公平が図れない場合一部分割を許容せず一回ですべての遺産を分割すべきとする趣旨に出たものといえます。

預貯金の払戻し制度

〈従前の銀行の預貯金についての取扱い〉
 銀行の普通預金や定期預金等については平成28年の最高裁決定により遺産分割の対象であるとされ、従前の法制度の下では遺産分割前の時点で各相続人が単独で預金の払い戻しを受けることはできませんでした。

〈遺産分割前の預貯金の払戻しの制度の新設〉
 遺産分割前の相続人の生活費や葬式費用等の資金需要に応えるため、平成30年の法改正により、預金の一定割合について各相続人が単独で払戻しを受けることができるという制度が新設されました(民法909条の2、令和元年7月1日、相続開始が施行日前であっても適用あり)。
 預金の払い戻しを受ける方法には2種類のものがあります。
①家庭裁判所の判断を経ずして払戻しを受ける方法
 一定額の範囲で単独で払戻しを受けることができます。

 単独での払戻しの可能額=
 (被相続人の預貯金(口座基準)の3分の1)×当該相続人の法定相続分の割合

※一金融機関あたりの上限は150万円とされました(法務省令)

②家庭裁判所の判断を経て仮処分としての預貯金の一部を仮に取得する方法(家事事件手続法200条3項)
 法改正により、仮処分の要件が一部緩和されました。

遺産分割の方法

遺産分割の方法には、以下の3種類のものがあります。

①協議による分割
 共同相続人の全員が合意することにより相続財産を分割する方法で、原則的な遺産分割方法になります。

②調停による分割
 共同相続人だけでは協議がまとまらないときや協議ができないときは、各共同相続人は家庭裁判所に遺産分割調停の申立てをすることができます。

③審判による分割
 遺産分割調停が不成立に終わった場合、審判手続きに移行し、家庭裁判所の裁判官が分割を実行することになります。

 遺産分割に当たっては、各相続人の相続分が一定の基準とされます。もっとも遺産分割協議においては相続分に関わらず、協議により自由に各相続人の相続財産を決定することができます。

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