Q&A
相続全般について
Q.父が亡くなったのですが、相続放棄をしようと考えております。相続放棄をすると、お墓とかも無くなってしまうのですか?
A.相続放棄しても、お墓は取得することができます。
相続放棄をすると、遺産の相続ができなくなるのですが、お墓は祭祀財産であるため、遺産に含まれません。ですので、相続放棄をしたとしても、お墓は取得することができます。安心して相続放棄してください。
Q.孫を養子にした場合,基礎控除額が増えることなどにより,相続税の節税効果があると税理士に言われました。いわゆる節税を目的とした養子縁組も民法上有効でしょうか。
A.縁組は,「当事者間に縁組する意思がないとき」「縁組の届出をしないとき」に限り無効になるとされています(民法802条各号)。最三小判平成29年1月31日民集71巻1号48頁は,節税目的であっても「当事者間に縁組する意思がないとき」にはあたらず、節税目的の養子縁組も有効と判断しています。すなわち,最高裁は,養子縁組は,嫡出親子関係を創出し,養子を養親の相続人にする制度である一方,これによる節税効果は,相続人の数に応じて基礎控除額を算定するものとする相続税法規定によって生じるものであるとしました。そして,相続税の節税の動機と縁組をする意思は,併存しうるものであると判断しました。そのため,いわゆる節税を目的とした養子縁組も縁組意思があれば,民法上有効となることになります。
なお,基礎控除額の算定の基礎となる相続人の数は、「その被相続人に実子がある場合又はその被相続人に実子がなく、養子の数が1人である場合は1人、その被相続人に実子がなく、養子の数が二人以上である場合は2人」とされており(相続税法15条2項各号)、人数制限がある点に注意が必要です。
Q.父が先日亡くなりました。兄は生前独立するに際して家族で住む家を建ててもらっていますが、私は、父から何もしてもらっていません。このような場合、父の遺産を分けるにあたって兄が建ててもらった自宅について、どのような取扱いをすればいいのでしょうか。
A.共同相続人となる者の中に被相続(今回の件ではお父様)から遺贈を受けたり、一定の生前贈与を受けた者がいる場合には、相続分の前渡しをされたものと考えて、その者の相続分を減らすこととされています。この遺贈や一定の生前贈与を特別受益といい、相続の際の相続額は、この特別受益の額を持ち戻しして計算します。もっとも、被相続人が持ち戻し免除の意思表示をしている場合は、他の相続人の遺留分を侵害しない限り、特別受益者の相続分を減らさないこととされていますので、その点はご留意ください。
Q.夫が死亡しましたが,妻である私を死亡時の受取人とする生命保険金を遺していました。この保険金も遺産として分割しなければならないのでしょうか。
A.保険金請求権は受取人の固有の財産であるため、相続財産にはなりません。そのため、遺産分割の対象にはなりません。生命保険契約が遺産となるかどうかは、保険金受取人が誰と指定されているかにより結論が異なります。
契約者・被保険者・保険金受取人が夫である場合、夫は自己のために生命保険契約を締結したものとして、保険金請求権は夫自身の財産と評価され遺産となります。そのため、この場合は遺産分割の対象となります。契約者・被保険者が夫で、保険金受取人として特定の者が指定されている場合、夫は他人のために生命保険契約を締結したと考えられるため、保険金受取人の固有の権利として、相続財産となりません。なお、判例によると、相続財産とならないとしても、一定の場合には特別受益として持ち戻しの対象とされますので、その点はご留意ください。
Q. 亡くなった父の遺産を確認するために、不動産の登記を見たいのですが、他県所在の他人名義の不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)でも取得することはできますか?
A. 自分の所有する不動産以外の登記簿謄本(登記事項証明書)は取得できないと思い込んでいる方もいらっしゃいますが、他人所有かつ他県所在の不動産の登記簿謄本(登記事項証明書)を取ることができます。
法務局で直接取得する方法とオンラインで取得する方法があります。たとえば、法務局の窓口では、登記簿謄本・抄本交付申請書(登記事項証明書交付申請書)に記載をして入手することができます。もっとも、地番や家屋番号は、いわゆる「住所」(住居表示)の地番とは異なることがあるので気を付けて下さい。
なお、オンラインの場合は、登記・供託オンライン申請システムのホームページにアクセスして、取得することもできます。
Q,相続はいつから開始するものですか?
A,相続が開始するのは、被相続人の死亡時となります。
相続の開始となる死亡には、①自然的な死亡②失踪宣告といった法律上の死亡も含まれます。詳しくは、以下の通りです。
①自然的死亡の場合…医師が死亡と診断した時点で、死亡届出時ではないので注意が必要です。
②失踪宣告の場合…普通失踪については、最後にその人の所在が確認できる日から7年間の期間が満了した日に死亡したものとみなされます。
※生死不明というのではなく、死亡したのは確実といえるのですが、死体の発見ができないという場合には、その取り調べを行った官公署が死亡地の地区村長に死亡の報告をし、戸籍上死亡という記載がなされる「認定死亡」というものもあります。
Q,預貯金と現金は、相続人にどのように相続されますか?
A、
1 現金について
現金は、いわゆるモノと同様に扱われます。そのため、各相続人の相続分に従って当然に分割して相続されるのではなく、遺産分割の手続を経て相続されます。
2 預貯金について
平成28年12月19日(最大決平成28年12月19日(家判9号6頁))に最高裁決定が出て、従来の判例が変更されました。平成29年4月6日の最高裁判決(最一小判平成29年4月6日(家判11号66頁))も合わせると、以下のとおりと考えられます。
普通預金、通常貯金、定期貯金、定期預金、定期積金については、各相続人の相続分に従って当然に分割して相続されるのではなく、遺産分割の手続を経て相続されます。
そして、定額貯金、当座預金、別段預金についても、同様であると考えられています。
なお、判例変更される前は、預貯金は、各相続人の相続分に従って当然に分割して相続されると解釈されており、例外として、相続人全員が遺産分割の対象とすることについて同意をした場合には、遺産分割協議の対象とすることができるとされていました。
Q,父が死亡しましたが、兄弟とは長らく音信不通で、兄弟が今どこにいるのか全く分からず、電話番号も分かりません。不動産等の財産があり遺産分割をしたいのですが、どうすればよいですか?
A,弁護士が職務上請求をして、そのご兄弟の住民票や戸籍の附票を取得して、兄弟の現住所を割り出すことができます。
しかし、ご兄弟が住民票上の住所には住んでおらず、郵便物等も届かない状態のため行方不明の場合は、裁判所に不在者財産管理人を選任してもらい、不在者財産管理人を遺産分割の当事者として遺産分割を行う方法があります。
Q,母が亡くなる直前に、母と同居の長男が、母の銀行口座から何百万円も出金していたのではないかと私は疑っています。調査する方法はありますか?どうすればいいでしょうか?
A,調査する方法はあります。
お母様の承諾のもとに出金したのか等の事情によりますが、出金者に対して法的な請求をすることができる可能性があります。
私は、同種の事件をこれまで3件受任して取り扱った経験があり、また、多くのご相談も受けてきましたが、証明できるか否かの問題もありますので、詳しくは法律相談をご予約ください。
Q,父が亡くなり、遺産として自宅、アパート、預貯金、株があることが判明しました。相続人は私の母と成人した子(2人)です。どのような分割方法があるのか、教えてください。
A,相続については、必ずしも遺産を法定相続分で分配しなければいけないという決まりはなく、当事者間での合意があれば、どのように分配するのかは自由です。
その具体的な方法は、現物分割、代償分割、換価分割という種類に分けられます。遺産分割の審判においては、原則は現物分割であるとされ、特別の事由があると認められるときに代償分割ができます(家事事件手続法195条)。現物分割、代償分割に支障がある場合には、換価分割が行われることになります。
現物分割とは、現金や不動産などを、特定の相続人が個別にそのままの形で相続することを言います。土地を分筆して、分筆後の土地をそれぞれの相続人が取得することも、現物分割に分類されます。一つの遺産に対して1人が引き継ぎますので、手続は簡単ですが、当事者間で不公平であると感じやすくなる可能性もある方法です。
代償分割とは、相続人のうち遺産を多く取得した人が、他の相続人に対して、多く取得した分に見合う金銭を支払う方法です。公平な遺産分割が行えるメリットがある反面、債務負担を命じられる相続人に債務の支払資力がないと、代償分割をすることは難しいです。
換価分割とは、当事者間の合意に基づく売却や現物分割が困難で、代償金の支払いによる代償分割もできない場合に、遺産を換価してその代金を分配する方法です。現金化して分割するので、簡単かつ公平な分割が可能になりますが、換価した代金は遺産ではないので、分配方法などについては調書に記載する必要があります。
Q,10年間一緒に住んでいた内縁の夫が死亡しました。私と内縁の夫との間には子どもが1人いて、子どもは認知をしてもらっています。私と私の子どもは、内縁の夫の遺産を相続することができますか?
A,法定相続人になるのは、「配偶者」と「血族相続人」ですが、この「配偶者」とは、法律上の婚姻関係がある者を指します。そのため、内縁関係や愛人関係にある者は法定相続人になりません。内縁関係や事実婚の場合では、どんなに長い間生活を共にしていたとしても相続権は生じません。また、内縁関係や事実婚をしていても、法定相続人にはならないため、遺留分も寄与分もありません。
しかし、内縁関係や事実婚の男女間に生まれた子ども(非嫡出子)については、認知がされている子は、父親の相続人になることができます。
以前は、非嫡出子の相続分は、婚姻関係にある男女間に生まれた子(嫡出子)の取り分の2分の1と規定されていましたが、最高裁判決と平成25年の民法改正により、現在では、非嫡出子であっても、法定相続分は嫡出子の相続分と同一になりました。
Q.遺産である不動産から生じる賃料収入は遺産分割を経なければ相続人は自分の取り分の分配を受けることができないのでしょうか?
A.相続開始から遺産分割までの間に、遺産である不動産から生じる収入は、遺産分割の対象とはならず、発生と同時に相続分に応じて各共同相続人に確定的に帰属するという考え方が平成17年9月8日の最高裁判決により明確にされました。
そのため、被相続人死亡後に生じた賃料は、その不動産の帰属が遺産分割等で決まるまでの間は、遺産分割を経なくても、各相続人に相続分に応じて帰属します。
相続分に応じた額の支払いを賃借人に請求することもできますし、他の相続人が自己の相続分に対応する額を受領した場合は、その相続人に対し自己の相続分に対応する額の支払いを請求することもできます。
そして、不動産の帰属が、後日、遺産分割によって決まったとしても、不動産を得られなかった相続人が不動産を得た相続人に対して、賃料を返還する必要はありません。
また、実務上は、遺産の分割の対象ではない賃料収入等についても相続人全員の合意により遺産分割の対象とするという取扱いがされることもあり、前述の最高裁判決もこの取り扱いを否定するものではないと考えられています。そのため、共同相続人全員の合意により遺産分割手続を経て賃料の配分を受けるという方法をとることもできます。
Q,会社を経営していた父が亡くなりました。父は、会社の債務を連帯保証しているそうです。父の相続人は、私と兄になり、兄は父の会社も継いでいます。会社の連帯保証債務は、会社を継いだ兄だけが負うものなのでしょうか?
A,会社の負債は、当然に、会社の代表取締役の負債と同視されるわけではありません。原則として、会社の負債と代表取締役個人の負債は別のものです。
しかし、代表取締役が個人として、主債務者である会社の連帯保証人になっている場合は、連帯保証人の死亡により、(相続人が相続放棄をしない限り)、連帯保証人の地位を相続して返済をしていく義務が生じます。その責任は、各相続人がそれぞれの法定相続分の範囲で負うことになります。ですので、お父様が連帯保証している金銭債務の半分の限度で、あなたも連帯保証債務を負うことになります。
この点、遺産分割協議をして、会社を継いだお兄様だけが連帯保証人としての地位を相続すると決めることも可能ですが、そのような遺産分割協議をしても、連帯保証の債権者はそのような遺産分割協議に拘束されません。債権者は、あなたに法定相続分の範囲で連帯保証に基づく金銭債権の請求をすることができます。もちろん、債権者が、あなたに対して一切金銭請求をしないことを同意してくれれば(法的には、お兄様のした免責的債務引受を承諾するという意味です。)、債権者の同意は有効となり、あなたに金銭請求をすることはできなくなります。
Q,子どもから、毎日ひどいことを言われ続けています。このような状況の中で、子どもに遺産を渡したくないと考えるようになりました。どのような対応がありますか?
A,遺留分を持つ推定相続人が、被相続人に対して虐待をしたり、重大な侮辱をしたり、著しい非行があったときには、被相続人が家庭裁判所に推定相続人の廃除を請求することが認められています(民法第892条)。
廃除という制度は、遺留分減殺請求権も含めた相続権が剥奪される強力な効果を有するため、廃除された推定相続人は、遺留分さえも手に入れることができなくなります。
このように、強力な効果を有するものなので、被相続人に対する虐待、重大な侮辱、著しい非行については、その行為が、被相続人との家族的共同生活関係を破壊させ、その修復が著しく困難なほどのものであるかという基準で判断されます(東京高決平成4年12月11日(判時1448号130頁))。
そうすると、ご相談の件は、「ひどいことを言われる」内容が、被相続人との家族的共同生活関係を破壊させ、その修復が著しく困難なほど重度のものである必要があります。
なお、推定相続人の廃除を認める審判が確定したのち、被相続人の戸籍のある市区町村役場に、審判書が確定したことを明らかにして、推定相続人の廃除の届出をしておくと、推定相続人が廃除された旨が戸籍に記載されますので、相続後の手続に役立つと思います。
遺言書について
Q,母が書いた自筆証書遺言の本文に押印がなく、遺言書を入れていた封筒のとじ目に2か所押印がありました。本文に押印がないことから無効になりませんか。
A,最二小判平成6年6月24日(集民172号733頁)は、遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印がなされていることを理由に、民法968条1項の押印の要件にかけることはないと判断しています。この最高裁判決は、封筒と遺言書が一体のものとして作成されたことを重視しています。そのため、遺言書と封筒が一体のものとして作成されている場合は、遺言書本文に押印がなくとも、封筒上に押印があれば、無効とならないことになります。
なお、封筒と遺言書が一体のものとして作成されたと認定されない場合(たとえば、押印された封筒が発見時に開封済みであり、本当にその封筒の中に遺言書が入っていたか疑義がある場合等)は、封筒に押印がされていても、遺言に押印がなされているとは認定できないので無効である旨判断した裁判例(東京高判平成18年10月25日判時1955号41頁)もあるので、注意が必要です。
Q,私は、自分に有利な内容の遺言書を預かっていますが、話を円滑に進めるため、これを使わずに遺産分割手続きをしたいと考え、他の相続人に対してこの遺言書の存在を秘密にしていました。ところが、後にこの事実が発覚してしまい、相続欠格事由である「隠匿」(民法891条5号)にあたると言われています。私は、相続人になれないのでしょうか。
A,「隠匿」にあたるかどうかについては、最小三判平成9年1月28日民集51巻1号184頁が、「隠匿」の故意の内容として、①相続人が遺言書の隠匿行為を行うにあたり、遺言書の発覚を妨げる結果が生じることの認識があること、②「相続に関して不当な利益を目的とするもの」であることの2つを必要としています。なぜなら、「隠匿」にあたるとした場合には相続人の地位を奪うような厳しい効果が生じるため、その分要件の該当性を制限的に検討すべきであるからです。
したがって、上記のような円滑な遺産分割手続をするために遺言書の存在を隠しているに過ぎず、自分の利益を図る目的がない場合については、①他の相続人による遺言書の発覚を妨げることは認識しているものの、②「相続に関して不当な利益を目的とするもの」とはいえないため、民法891条5号の「隠匿」にはあたらないと考えられます。
Q,遺産相続でもめています。遺言書があるのですが、公正証書で作ったものでなくとも、効力はあるのですか?
A,公正証書で作られたものでなくとも効力はあります。
ただし、公正証書でない遺言書の場合、偽造されたものでないか、遺言者が遺言書を作った時に意思能力がなかったのではないか、遺言書は無理矢理作らされたものではないか等が争いになることが多いです。
Q,兄が父の遺産を独り占めしています。たしかに、遺言書には、全財産を兄に相続させると書いてありましたが、理不尽だと思っています。兄が全財産を独り占めすることは法的に認められるのでしょうか?
A,一定の相続人には遺留分が認められています。ですので、遺留分減殺請求権を行使すれば、一定の限度で一部の相続財産を取得することは可能です。
もっとも、遺留分減殺請求権が行使できる期間には制限がありますので、遺留分減殺請求権を行使する場合は、早めに行使した方がよいと思われます。
なお、民法1042条は、「減殺の請求権は、遺留分権利者が、相続の開始及び減殺すべき贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から10年を経過したときも、同様とする。」と定めています。
Q,私も高齢になってきました。子ども達があとでもめないように遺言書を書こうと思うのですが、遺言書の書き方の相談にのってもらえますか?弁護士さんは、私が死んだ後の相続争いについて仕事をするだけなのですか?
A,もちろん、遺言書の書き方のご相談も承っております。
弁護士は、相続争いが発生してから仕事をするだけではありません。また、遺言内容を実現するため、遺言執行者に就任することも可能です。
遺言者があるために争いになる事案もありますが、むしろ、遺言書がないために争いが起こることの方が多いと思います。
ですので、私は、「遺言書は、人生最後の親心で作るもの」と考えています。
Q,母に遺言書を書いてもらいました。私に自宅不動産を相続させるという遺言なのですが、遺言書で登記することはできますか?
A,遺言書が公証役場で作った公正証書遺言であれば、公正証書遺言を使って登記をすることができます。
そうではなく、自筆のもの(自筆証書遺言)の場合、家庭裁判所で検認手続をする必要があります。
家庭裁判所で検認手続をすると、自筆証書遺言書に検認調書を付けてもらえます。
この検認調書付きの自筆証書遺言書で登記をすることができます。
検認手続のみのご依頼も可能ですし、登記をする司法書士のご紹介もしています。お気軽にご相談ください。
Q.父が遺言を残していたのですが,遺言書の文面が曖昧で内容が一義的でありません。そのような遺言書を解釈するために,遺言外の事情を用いることが許されるのでしょうか?
A.遺言書の解釈に際しては,遺言書の文言だけでなく,遺言以外の諸事情を遺言者の真意の探求のための資料として利用することが認められます。
しかし,遺言書の文言からかけはなれた解釈をし,遺言の意味内容を実質的に修正するようなことは,許されません。
Q.先日父が死亡しました。父からは,私に有利な遺言書を作っていたと聞いていました。しかし,遺言書は見つかりません。おそらく,父と同居していた私の兄が遺言書を隠したのだと思います。そのような兄に相続分は認められますか。
A.最高裁平成9年1月28日判決は、遺言を隠匿したことだけではなく、それによって不当な利益を得る目的があったことが認められなければ,相続欠格事由には該当しない旨を判示しました。
そのため,同居していた兄に,遺言を隠匿することによって不当な利益を得る目的が認められないと,兄に相続分が認められてしまうことになります。
Q.遺言者が負っていた特定の債務を特定の相続人に相続させる旨の遺言がなされ,遺言執行者が選任されました。しかし,遺言執行者が債務の弁済に必要な措置をとってくれません。遺言者の債権者は,遺言執行者を被告として訴訟を提起して,債務を回収することはできますか。
A.東京高裁平成15年9月24日判決(金法1712号77頁)は、「遺言の中に相続債務を特定の相続人に相続させる文言がある以上、遺言執行者にこれを執行するための処置を構ずべき権限及び義務があると解される」と判示し、遺言者の債権者が、遺言執行者を被告として、遺言者が負担していた債務の履行を求める訴訟を提起できると判断しています。
この東京高裁判決によれば、遺言の中に相続債務を特定の相続人に相続させる文言がある場合は、遺言執行者に被告適格があることになります。
相続放棄と限定承認について
Q.父が亡くなったのですが、相続放棄をしようと考えております。相続放棄をすると、お墓とかも無くなってしまうのですか?
A.相続放棄しても、お墓は取得することができます。
相続放棄をすると、遺産の相続ができなくなるのですが、お墓は祭祀財産であるため、遺産に含まれません。ですので、相続放棄をしたとしても、お墓は取得することができます。安心して相続放棄してください。
Q.死亡した父の遺産である預金を解約し,解約金を,葬式費用,治療費の支払に充て,また,仏壇・墓石の購入費用に充てました。相続放棄する前に相続の対象財産を処分すると放棄できなくなると聞いたことがあるのですが,この場合でも相続放棄できますか。
A.遺産から,高額とはいえない葬式費用や治療費を支払った事案で,相続放棄の申述受理をした裁判例(大阪高決昭和54年3月22日(家月31巻10号61頁))があります。また,裁判例の中には,被相続人の預金を解約して,解約金を,高額ではない仏壇・墓石の購入費に充てた事案で,相続放棄の申述の受理を認めた裁判例もあります(大阪高決平成14年7月3日(家月55巻1号82頁))。
民法921条1号は,法定単純承認について定めているところ,その趣旨は,単純承認(相続の承認)をしない限りできないような行為をした場合に,黙示の単純承認があったと推認され,また,第三者から見ても単純承認があったと信じるのが当然であるから,一定の「処分」行為をもって単純承認とみなすことにしたと解釈されています(最一小判昭和42年4月27日(民集21巻3号741頁)ほか)。そのため,相続の承認の前に社会儀礼上当然にする行為は,「単純承認をしない限りできないような行為」と評価して,民法921条1号の「処分」にあたらないと解釈されることになります。そのため,仏壇・墓石の購入について,死者を弔うための自然な行動であり,その購入費用がいずれも社会的に不相当に高額でなければ,上記大阪高決が判断したように,「処分」に該当しないと解釈される余地があります。また,同様に,社会的に不相当に高額でなければ,遺産たる預金の解約金を葬式費用や治療費に充てても,上記大阪高決が判断したように,「処分」に該当しないと解釈される余地があります。
もっとも,上記は,最高裁の判断ではなく,また,大阪高決も,相続放棄の申述の受理を認めたに過ぎません。相続放棄の申述の受理が認められても,別途訴訟で相続放棄の有効性を争うこともできます。そもそも,社会の意識が変化していく中で,不相当に高額か否かを判断することは難しい面もあります。そのため,特に,仏壇と墓石の購入については,有効な相続放棄ができなくなるリスクがあるため,相続放棄を検討している方は,遺産たる預金を解約して仏壇と墓石の購入費に充てることについてはできるだけ控えた方がよいと考えます。
Q,父が死亡しましたが、長らく音信不通だったため、死後4ヶ月経ってから、死亡を知りました。相続放棄や限定承認の期間制限は3ヶ月ということですが、死後3ヶ月以上経っているので、もう相続放棄や限定承認することはできないのですか?
A,期間制限は、「死後」3ヶ月というわけではありません。「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3ヶ月です。ですので、相続放棄や限定承認をすることは可能です。さらに、「自己のために相続の開始があったことを知った時」を柔軟に解釈する判例もあり、また、期間を伸ばす手続もあります。
もっとも、相続財産の一部を処分したりすると、相続放棄や限定承認することができなくなるので、注意が必要です。
相続放棄や限定承認をお考えの方は、早期にご相談にいらしてください。
Q,父が死亡しましたが、長らく音信不通で、どの程度債務があるか分かりません。亡父は不動産を所有していたので、相続したいのですが、多額の借金があるかもしれないと思うと、相続するのは恐ろしく、放棄してしまうことも考えています。どうしたら良いでしょうか?
A,相続の限定承認をする方法があります。
お父様の残した財産の範囲で負債を引き継ぐので、「損」はしません。
また、多額の負債があることが判明したとしても、限定承認者には、先買権があるので、不動産の時価相当額を払えば、お父様の不動産を競売手続によらずに取得することができます。
限定承認するためには、色々な要件があり、また、3ヶ月の期間制限があるので、なるべく早めにご相談にいらしてください。被相続人の債務を調べるノウハウもお教えします。
Q,父が亡くなりました。親戚や友人から借り入れがあったようなので相続放棄をしたいのですが、お墓の管理はどうなりますか?
A,お墓などの祭祀財産は、相続財産には含まれません。なので、相続放棄をした場合でも、お墓を引き継いで管理していくことには、何の問題もありません。
当事務所について
Q,経験の浅い弁護士よりも経験豊富な弁護士に依頼をしたいので、法律事務所を選ぶ際に、弁護士の経験を比較したいです。どのようにして調べればよいか教えてください。
A,まず、当事務所の弁護士の弁護士登録年次は、2005年であることをホームページに明示していますし、司法修習期が58期であることも明示しています。
他の法律事務所では、経験の浅い弁護士は、ウェブサイト上に弁護士登録年や司法修習期を掲載していないこともありますが、日本弁護士連合会の弁護士検索ページでその弁護士の氏名を入力すれば、弁護士登録番号を確認することができます。
弁護士登録番号の数字が小さい方が弁護士登録した時期が古く、数字が大きい方が弁護士登録した時期が最近である(経験年数が少ない)ということになります。
司法修習とは、裁判官、検察官、弁護士になるために、司法試験合格後に司法研修所で受ける研修のことです。そして、1947年から現在の司法修習制度になり司法修習生を採用しているので、その年に司法修習を受けて司法研修所を修了した方が第1期にあたります。法曹三者の間では、この司法修習期が、法曹としての経験の長さを示すものとして認識されています。そのため、50期の弁護士の方が70期の弁護士よりも法曹としての経験が長いということになります。
この司法修習期は、日本弁護士連合会の会員ページで検索することによって確認することができますが、一般の方は、会員ページを利用することができません。
しかし、一般の方でも、日本弁護士連合会の弁護士検索ページでその弁護士の氏名を入力すれば、弁護士登録番号を確認することができます。弁護士登録番号は、弁護士登録した順番ごとに番号が割り振られるため、弁護士登録番号が30000番の弁護士の方が、50000番の弁護士よりも、弁護士登録した時期が古いということになります。なお、山田昌典弁護士の弁護士登録番号は32883番になります。弁護士登録番号、修習期、経験年数の早見表を作成して公開している弁護士もいるので、こちらもご覧ください。
Q,法律相談に行きたいのですが、新型コロナウィルスに感染するリスクを考えて躊躇しています。つくば法律事務所では、新型コロナウィルス感染防止のためにどのような対策をしていますか?
A,新型コロナウィルス感染のおそれは、まだ続くものと考えて対策を取っています。当事務所の取っている新型コロナウィルスの感染拡大防止対策は、以下のとおりです。
1、弁護士及び事務職員のマスク着用
2、相談者のマスク着用(マスクをご用意でない方にはマスクを配布しています)
3、来訪者の手指アルコール消毒徹底(アルコール消毒液を出入口に備え付けています)
4、弁護士及び事務職員の手洗い、手指のアルコール消毒(アルコール消毒は、事務所外に出る時及び事務所内に戻る際に,必ず行っています)
5、毎朝、アルコールを用いて、事務所内及び相談室内の拭き掃除実施
6、相談室をする使用ごとに、毎回必ずアルコールを用いて相談室内の拭き清掃実地
7、相談室内に、高さ60cm,幅90cmのアクリル板を設置
8、相談室内で弁護士とご相談者様の座る距離を約2m離す
9、一時間毎に事務所内の換気を実施
10、オンライン法律相談、電話法律相談の開始(有料)
今後も、状況を注視しながら必要な措置を行っていきたいと思っています。ご来所いただく皆様にも引き続き、ご理解ご協力をお願いいたします。
後見人と予防接種について
Q.新型コロナウィルスの予防接種について、後見人に予防接種をすることについての同意権はありますか?
A.あくまで個人的な見解ですが、成年後見人には、同意権があると考えます。
まず、成年後見人には、原則として、医療行為の同意権はありません。
そこで、例外的に、予防接種について、予防接種法または予防接種法実施規則に基づいて、成年後見人に同意権限が付与されているかを検討することになります。
この点、同意権がないと考える見解は、おおむね、予防接種法8条2項及び9条2項が、それぞれ、「勧奨する」「必要な措置を講ずるよう努めなければならない」と定めているに過ぎないことを挙げて、これらの規定を根拠としては、同意権は導けないと主張しています。
私も、予防接種法8条2項及び9条2項を同意権の根拠とすることはできないと考えます。しかし、予防接種法実施規則5条の2は、「被接種者又はその保護者に対して、予防接種の有効性及び安全性並びに副反応について当該者の理解を得るよう、適切な説明を行い、文書により同意を得なければならない。」と定めており、保護者が同意することができることを前提にしており、また、予防接種法2条7項は、保護者とは親権者または後見人をいうと定めているので、予防接種法及び予防接種法実施規則5条の2により、同意権が付与されていると考えます。
厚生労働省健康局結核感染症課も、新型インフルエンザの予防接種について、「成年後見制度における医療同意については、成年後見人の事務外と解釈されるが、予防接種の実施については、予防接種法上の保護者に後見人は該当するため、後見人の同意を もって成年被後見人は接種を受けることができると考えている。」と述べつつ、予防接種法2条7項及び予防接種法実施規則5条の2を引用しています。
なお、たしかに、予防接種法8条2項及び9条2項は、予防接種を受ける努力義務等に関する規定ですが、これは、同条1項を見ても分かるとおり、対象者本人であっても、予防接種を受けることは「法的義務ではなく努力義務」であることを定めているものです。
この規定は、国が予防接種を義務として強制するのではなく、あくまで対象者の判断で予防接種を受けることを明らかにする規定といえます。
そうすると、この規定は、判断能力のある対象者本人は、対象者本人に予防接種をすることの同意をする権限を有しているが、予防接種を義務として強制されるわけではない(接種は任意)ということを明らかにしているに過ぎない規定となり、同様に、保護者(後見人)についても、保護者(後見人)が、対象者本人に予防接種をすることの同意をする権限を有しているが、予防接種を義務として強制されるわけではない(接種は任意)ということになります。